ヤンキー婆さんとの出会い
素敵なご婦人だったが、ヤンキー婆と自称されていたのでヤンキー婆さんと書かせていただく。
大学の喫煙所で出会ったヤンキー婆さんは、素敵な黒い服をお召しになっていて、ピンクのマニキュアが驚くほど似合い、薄いパープルを入れた眼鏡が知的に輝いていた。
ヤンキー婆さんは、今までの人生、実に清楚に清潔に生きて来られ、喫煙も飲酒もなかったのに、悲しいことに食道がんになってしまったのだという。
肺がんでも、タバコを病気かと思うくらい吸う人がならなくて、何も吸わない人がなったりする。リスクはリスクであるが、病気というものは人を不平等に襲う。
ヤンキー婆さんの食道がんは、幸いにも初期に発見され、内視鏡的に切除できたそうだ。
しかし二度の再発。大腸にも病変疑惑。
飲む薬で嘔吐と下痢をくりかえし、とても苦しかったそうだ。
そして、ヤンキー婆さんは開き直った。
残り少ない人生、やれることをやろうと。
マニキュアも塗ってみよう。
そして煙草も吸ったことがない、吸ってみよう、そう思ったらしい。
嘔吐と下痢の副作用を伴う辛い薬を止め、お腹に優しい食事に切り替えたそうだ。
「これから医師になるあなたにこんなことを言うのも失礼だけどね…お医者さんが信頼できないの」
こんな言葉を患者さんからかけてもらえるのは、私がまだ医学生だからこそだ。
体をボロボロにしていく癌治療に不信感をもたれる方も多い。
ガイドラインに沿うことが現状はベストではあるが、患者さんの苦痛に寄り添えるドクターがなかなかいないのだろう。
だからこそ代替医療に藁をも下がる思いで向かう患者さんもいる。
正しい医療知識を伝える、ということは近藤氏の著書やそれによって「被害をこうむった」患者さんたちから得た教訓として、医師が行うべき義務となっている。
その上で、更に患者さんの人生に寄り添わねばならないのだということを痛感させられた。