くうきあなのはなし

愛は孤独を救わない

眠れない君に返信をしよう

高校時代、ちっとも接点のなかったある同級生と、どういうわけか繋がって、LINEのやり取りをしている。

彼は大学入学後にうつ病になり、現在療養中。facebookへの投稿内容にも不穏なものがあり、事情を知らない同級生なら驚きの目で見ているのではないかと思う。

 

彼からは、食事の内容の報告と、好きなドーナツ、英会話スクールの開始と終了を知らせるメッセージ、そして時報が届く。

 

ある日、カーチャンが入院した、とメッセージがきた。

どのくらいの病気なのか、と尋ねたら、大変っぽい、とだけ返ってきた。

そして、続報は何もないまま、カーチャンの葬式が終わった、とメッセージがきた。

 

私も病気の人間であるから、調子を崩したときに「やばいわ」と送ったりする。

「やばいね」とだけ返ってくる。

 

彼がどう思っているのかは知らないけれど、壁打ちのような感覚である。

精神的に体調不良を起こした時、周囲は「頼ってくれれば」「相談してくれれば」と言ってくれるけれど、実際に行動に起こすのは難しい。

原則として、精神病からくる不調に、明確な原因はない。

辛いといえば、何があったのか、と聞かれ、何もないと答えると、何かあったはずだと探され、果てには雨のせいかなどと言われてしまう。

私はただ、辛いと言いたかっただけなのに。

 

「あなたは人に頼って相談するべきなのよ」と母親から言われた。

私は食ってかかった。

「今までそう言ってくれる人とたくさん出会った、その愛情には感謝する。だけれど、繰り返すほどに狼少年のように扱われて、それならば相談しない私が悪いのではなくて分かってくれない世の中が悪い、もう諦めた」

 

ーー咳をしても一人 (放哉)

 

壁打ちは、壁からボールが返ってくるから良いのだ。

一人、病んだ時用の鍵アカウントに鬱々と投稿し続けていること、それではボールはなげっぱなしの状態だと思う。

彼から、眠れないとLINEがくる時、イライラするとメッセージが届く時、私は壁になれていたら良いと思う。実際彼がどう受け止めているかは計り知れないけれど、自分はそういうつもりで一言そっか、と返している。

 

ーー「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ (俵万智

 

私は彼に、無遠慮に「死にたい」と話しかける。彼は「まあそうだね」と返す。

なあ、君は去年、「あなたのおかげでこの一年幸せでした」と言ったけれど、私もお前さんに助けられてるよ。

 

眠れなければ何通でも送ってくるといい。

既読をつけるから。