くうきあなのはなし

愛は孤独を救わない

マダムのバナナケーキ

お題「思い出の味」

 

宿題が終わったら、電話をして、「今から遊びに行ってもいい?」と聞いて近所の友達のところへ遊びに行く。

それが小学校2年生くらいまでの私の日常だった。

 

遊びに行って何をするかと言うと、友達と顔を突き合わせてゲームボーイポケモンをしていて、親からは「なんで会ってるのにそんなことをするのか」と苦笑されたものだが、現代の子供達とはそう言うものだと思う。

別にゲームボーイがしたいんじゃなくて、友達と一緒に居たいのだ。

 

そんな友人の家に行くと、たまにそのお母さんが、「ケーキ作ろう」と言ってケーキを作ってくれることがあった。

 

これがたまらなく美味しい。

いわゆる、黒糖バナナのパウンドケーキなのだが、私にはその時折訪れる特別感が何よりも嬉しかった。

優しい黒糖バナナの味は、そのママの優しさを表わしたかのようだった。

 

ふと思い出して、数年前にレシピを尋ねたことがある。

教えてもらった通りに作ると、あの頃と同じ優しく甘い味のパウンドケーキが出来上がった。

 

私がお菓子作りを好きになったのは、たまたまシフォンケーキを成功させたことから。

紅茶のシフォンケーキが今でも得意だ。

で、お菓子作りの本や、発展してパン作りまでしているけれど、そう言う本から本格的な作り方を習得して、我ながらちょいと売れるんじゃないかと言うくらいまで作れるようになった。

 

でも、バナナパウンドケーキだけは特別。

パウンドケーキの基本はできるだけバターを溶かさず砂糖と混ぜることだが、ママはマーガリンで作っていて、結構とかしていた。

ふんわりとした仕上がりの方が美味しいのだが、わざと重く作る。

そのほうが懐かしい味に近いから。

 

自分にも子供ができたら、たくさん一緒に料理やお菓子を作って見たいと思う。

美味しいケーキを焼いてあげよう。

きっと、それがその子の思い出の味になるから。