くうきあなのはなし

愛は孤独を救わない

獣医師のムンテラ

ムンテラとは、要はICである。ICとはインフォームド・コンセントのこと(だと思う、多分)インフォームド・コンセントとは医師が患者に病状や治療方針を説明し、同意を得ることである(だから厳密には、インフォームド・コンセントの取得、とまで言わなければいけないはず)

 

母の大腸癌入院などでムンテラに同席して、説明を聞いたりする。

母の大腸癌は、横行結腸の左端の方にできていた。これは上腸間膜動脈と下腸間膜動脈の栄養領域だから、血行性転移を考えた時に切除範囲が大きくなる。

で、今書いたようなことなんてのは、解剖を知らない人には全く分からない話のはずである。

だから、先生はわかりやすい大腸の絵を描き、腫瘍の場所を示し、血管を描いて、母と私に説明してくれた。

私は解剖で知っていたから、とても分かり易いなあふむふむと思っていたのだけど、母はその簡便な絵でも、なんかよくわかんないけどおまかせします、という感じであった。

大学の実習でも、ムンテラへの同席があるが、患者さんやそのご家族により理解の様子や感じ方などは様々だったと理解している。

だから、これから先、私の医師人生においても様々なリアクションに出会うのだろうと思う。

 

さて、タイトルにした獣医師のムンテラだが。

獣医の業界というのは、保険診療の効く人間とは違って、要は全部自由診療である。

だから、ある病気に対して、A,B,Cの三つの治療があり、ABC全てを行うことがベストであったとしても、費用面からAのみを選択するなど、患者(というか飼い主)の意向が、人間に対する医療よりも、より強く反映される側面があるように思う。

私は小鳥と犬を飼っているけれど、犬のかかりつけと鳥のかかりつけは異なっていて、何件かの獣医院を掛け持ちしている形になっているので、それぞれのムンテラの違いが面白い。

 

見事だと思うのが、我が犬のかかりつけドクターである。

非常に理路整然と病状を述べられる。

「どうして」その「病名」になり、その「治療法にはABC」があり「Aをすればこう」「Bをすればこう」etc 「自分の理想としてはABC全てが最も効果的である」

という形に、つらつらと素早く説明されるのである。

冷たい印象を受ける飼い主さんもいるかもしれない。

でも、「確実に飼い主の同意をとる」ということに特化した説明の仕方をされる。

ポリクリで出会ったインフォームド・コンセントよりも遥かに明瞭で、いつも感嘆する。

ただ、あの一種の冷たさは人間に対して行うと怖い印象を持たれるかもしれないが。

結局、「押し売り獣医になりたくないから」と先生はおっしゃっていた。

 

現在、うちの文鳥立夏は肝臓を悪くしていて、病院に通っている。強肝剤をもらっている。

一度通うと5400円かかる。2週間分の薬でこれだから、月に一万円ということになる。

人間の医療費を思うと、あまりの乖離に驚く。

 

一つの動物病院は、診察後二日、病院側から様子はどうか、という旨の電話をかけてきてくださった。

また別の病院は、休日夜間にも関わらず、留守電に対応してくださり、電話で適切な処置の指示を下さった。

至れり尽くせりである。

うがった見方になるのは承知だが、これは獣医業界が自由診療の世界で、よりサービスの良い方が選ばれるという厳しい競争に身をおいているからなのではないかと思う。

 

もしも、人間の医療も自由診療が解放されて行ったら。

病院もサービス重視をし始めるのだろうか。

 

どちらにせよ、どの獣医師の先生方も、動物への深い愛を持って接してくださる。

こちらの経済的負担のことも考えて、費用を安くして下さるありがたい方達である。

私は動物が好きだから、そんな獣医師の世界が、少しだけ羨ましい。

自分の愛を経営という形で表現できるのだから。